宅地建物取引業法の一部改正について~水害リスク情報の重要事項説明書への追加~
令和2年4月1日には民法が改正され不動産業界では契約書の見直し等やることがたくさんありてんやわんやでした。
落ち着いたと思った矢先に宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する命令が令和2年7月17日に公布され、8月28日に施行されることとなりました。
私なりに改正の背景やポイントをまとめましたので是非参考に。
1 重要事項説明書とは?
そもそも~水害リスク情報の重要事項説明への追加~の【重要事項説明】とは何か説明します。
宅地建物取引業法35条で不動産を売買・交換・賃借しようとする方(お客様)にあらかじめ知っておくべき最小限の重要な事項を宅地建物取引業者(不動産会社)の義務として、宅地建物取引士によって書面を交付して説明しなければならなりません。その際に交付する書面を重要事項説明書といいます。
マンションを賃貸で借りる際や購入する際に不動産業者より説明される”重要な事項が記載された書面”と理解いたければ十分です。
賃貸物件を借りられた事のある方は契約書類を一度確認してみてください!!【重要事項説明書】が必ずあります。重要事項説明書が見当たらない場合は当時契約した不動産会社にお問い合わせすることをオススメします。
余談ですが、たまーに【重要事項説明書】をきちんと説明していない悪徳業者がいますので気をつけてください。
2-1 改正の背景
そもそも宅地建物取引業法の一部がなぜ改正されることになったのでしょうか?
改正された内容は【不動産取引時にハザードマップにおける取引対象物件の所在地について説明することを義務化する】という内容です。
購入・賃貸する方にその所在地の水害リスクを可視化して伝えることによりリスクを認識してもらうことが改正の趣旨ですが、なぜ今なのか?そして改正に至った最大の理由は何なのか?簡単に説明します。
相次ぐ災害
昨年より今年にかけ水害関連のニュースが頻繁に報道され全国で甚大な被害をもたらしていることは皆さんも周知の事実かと思います。
昨年度(令和元年)でも6月鹿児島県、7月福岡県、8月佐賀県、9月千葉県、10月宮城県・福島県・茨城県・埼玉県・神奈川県・長野県での洪水・土砂災害が連続し特に10月の台風19号は、上陸直前の中心気圧が955ヘクトパスカル、最大風速40メートル/秒と大型且つ観測史上最大の降雨量となりました。被害は関東・甲信・東北地方などを中心に甚大な被害となりました。
記憶には新しいタワーマンション被害
浸水被害が武蔵小杉周辺のタワーマンションエリアも襲い十数棟あるタワーマンションのうち2棟が内水氾濫によって、地下階の電気関係整備が浸水し各戸の電気とエレベーターが止まりました。高層階を階段で上り下りしなくてはならないうえ、水道ポンプが被災し、水やトイレも利用できない事態が長く続きました。(※タワーマンションはマンションデベロッパーが分譲事業の利益を優先した計画で建てることが多いのでこのような地下に電気室が設けられてることが多くあります。)タワーマンションは地震の対策として「免震構造」や「制震構造」といった対策が施され【災害に強い】イメージがありましたが、それはあくまでも【地震に強い】だけで【水害】に対しては脆弱であることが露呈されました。
ここで挙げた他にも数多くの水害の被害が報告されているので事実です。
世界の環境意識と知事会の提言
台風のエネルギー源は海面温度の上昇で海水から与えられる水蒸気です。事実として世界では100年に1度気温が上昇しており、世界経済フォーラムが公表した報告書(グローバルリスク報告書2020)によると、今後10年間に発生する可能性の高いリスクは【異常気象】【気候変動の緩和・適応の失敗】【自然災害】【生物多様性の喪失生態系の崩壊】【人為的な環境災害】で全て【環境】に関連するリスクです。世界的にも環境への意識は高まっているので周知の事実です。
国内に目を向けると宅地建物取引業法においては、今までは、不動産の売買・賃貸の際に浸水想定区域などについて当然説明する義務も無く、そのような情報開示も企業によってまちまちでした。通常は甚大な被害をもたらす浸水リスクが不動産価格に反映したり、金融機関の担保評価に影響を与えてもよいものですが一切反映も影響もありませんでした。しかし相次ぐ災害被害を受け、全国知事会は令和元年7月、不動産取引の際にハザードマップを提示するなど、浸水リスクの説明を義務付けるよう国に提言する決議を行いました。今まで国は不動産業界団体にハザードマップの説明をせよと通知を出すだけの”お願い”レベルにとどまっていたからです。
このような被害の状況や世界的な環境問題の意識、全国知事会の提言があり宅地建物取引業法の一部を改正する流れとなったようです。
2-2 改正のポイントは?
改正のポイントを説明する前に国交省HPに掲載されている”宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(平成13年国総動第3号)新旧対照条文”の新条文を下記に記載します。どちらかというと新条文は不動産業者で働いている方向けに記載していますので一般の方はその後のポイントをご確認いただければ十分です。
改正案 |
第三十五条第一項第十四号関係 法第三十五条第一項第十四号の省令事項(規則第十六条の四の三)について 宅地の売買又は交換の契約に当たっては以下の1から3の2を、建物の売買又は交換の契約に当たっては1から6までの事項を、宅地の貸借の契約に当たっては1から3の2まで及び8から13までの事項を、建物の貸借の契約に当たっては1から5まで及び7から12までの事項を説明することとする。 1~3 (略) ーーーここまでは現行でここから下が新設となりますーーー 3の2 水防法の規定による図面における宅地又は建物の所在地について(規則第16条の4の3第3号の2関係) 本説明義務は、売買・交換・貸借の対象である宅地又は建物が水防法(昭和24年法律第193号)に基づき作成された水害(洪水・雨水出水(以下「内水」という。)・高潮)ハザードマップ(以下「水害ハザードマップ」という。)上のどこに所在するかについて消費者に確認せしめるものであり、取引の対象となる宅地又は建物の位置を含む水害ハザードマップを、洪水・内水・高潮のそれぞれについて提示し、当該宅地又は建物の概ねの位置を示すことにより行うこととする。本説明義務における水害ハザードマップは、取引の対象となる宅地又は建物が存する市町村(特別区を含む。以下同じ。)が配布する印刷物又は当該市町村のホームページ等に掲載されたものを印刷したものであって、当該市町村のホームページ等を確認し入手可能な最新のものを用いることとする。当該市町村に照会し、当該市町村が取引の対象となる宅地又は建物- 2 -の位置を含む水害ハザードマップの全部又は一部を作成せず、又は印刷物の配布若しくはホームページ等への掲載等をしていないことが確認された場合は、その照会をもって調査義務を果たしたことになる。 この場合は、提示すべき水害ハザードマップが存しない旨の説明を行う必要がある。なお、本説明義務については、水害ハザードマップに記載されている内容の説明まで宅地建物取引業者に義務付けるものではないが、水害ハザードマップが地域の水害リスクと水害時の避難に関する情報を住民等に提供するものであることに鑑み、水害ハザードマップ上に記載された避難所について、併せてその位置を示すことが望ましい。また、水害ハザードマップに記載された浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮するとともに、水害ハザードマップに記載されている内容については今後変更される場合があることを補足することが望ましい。 4~13 (略) 出典: 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(平成13年国総動第3号)新条文 |
要約すると?
長い条文がありますが、要約すると、
◯重要事項説明書に【水防法に基づく水害ハザードマップにおける当該宅地建物の所在地】を追記して説明しなさいよ!!と言うことです。
問題点
しかし法改正されても問題があります。実務上「重要事項説明書」と「売買契約」は同日に行われているため、契約当日になって、お客様(契約者)が「ここには浸水リスクがあります」と説明を受け知ったところで、考える時間もなく契約してしまうのではないでしょうか?個人的な考えですが、お客様(契約者)の目線に立ち「契約の数日~数週間前には重要事項説明を行い浸水リスクを理解いただく」事が望ましいと思っています。このあたりは業界をあげて取り組んで行くべきことだと思っています。
因みに水害ハザードマップというのは建物の所在する市町村のHPで公開されているので一般の方でも閲覧可能となります。
3 関係する人は?
この、宅地建物取引業法の一部改正について~水害リスク情報の重要事項説明への追加~によって影響がある人は誰でしょう?
ずばり
①不動産を売買・交換・賃借する際の売主・貸主
②売買・交換・賃借しようとする際の買主・借主
③売買・交換・賃借しようとする際の仲介不動産会社
となります。
4 他人事でない災害リスク
「東京は安心で安全で関係無い」「災害があるのは地方」「東京は整備がされている」といった認識をされている方が私の周りでも大多数を占めています。
皆さんはどうでしょうか?「浸水リスク」といっても少しばかり他人事で聞いていることはないでしょうか?
3分の1
「3分の1」この数字は東京都が公表した浸水シュミレーション(2018年公表)で東京23区の3分の1の面積にあたる約212平方キロメートルが浸水し堤防決壊などで浸水の深さは最大で10メートル以上と約84平方キロメートルの広範囲にわたって1週間以上水が引かない地域が発生します。
17区で住宅などが水に浸かり、大手町や丸の内、新橋など、都心のオフィスや繁華街も浸水し約390万人に影響が及ぶ見込みです。経済的損失は約90兆円との声も聞きます。因みに過去最大の被害をもたらした西日本豪雨の被害は1.1兆円と言われていますのでその90倍です。
ここにいてはダメです
「ここにいてはダメです」衝撃的なキャッチコピーですが、実際に江東区のハザードマップの表紙にかかれています。
東京都23区の中でも「江東5区」は大きな被害が想定されてます。東京都の試算によると墨田区は99%、葛飾区は98%、江戸川区は91%、江東区は68%、足立区は50%以上が浸水します。被害想定は250万人と住む地域の90%以上が被害に見舞われるわけです。
このような浸水被害の想定が現実的に公表されているわけですので他人事ではありません。
5 五反田・大崎エリアの水害リスクは大丈夫?
弊社株式会社ランドワーク不動産が所在する五反田・大崎エリアの水害リスクはどうでしょうか?
所見は?
目黒川沿いの五反田一帯や立会川やその周辺道路、戸越銀座一帯は周辺に比べ地盤が低いため、過去に浸水被害が発生しています。
すこし昔の情報になりますが、平成11年8月に発生した豪雨では約2,800棟の浸水被害が発生したと言われています。
近年は品川区と東京都が連携して様々な対策を積極的に進めているおかげもあり以前と比較して大幅に被害を軽減させているようです。
しかしながら目黒川流域・戸越、西品川地域は豪雨の際には浸水被害が発生する可能性が他の地域に比べて高いと言えるでしょう。
品川区浸水ハザードマップを確認すると
品川区浸水ハザードマップを確認すると弊社ランドワーク不動産の所在する東五反田3丁目は清泉女子大学は安全ですが、残念ながらランドワーク不動産はMAPを見る限り1メートル~3メートル浸水してしまう可能性があることがわかります。その他にも目黒川沿いは広範囲に渡り浸水想定エリアとなり、東五反田1丁目・2丁目、大崎1丁目・5丁目、西五反田1丁目・2丁目、広町1丁目、西品川1丁目、2丁目が浸水の可能性が非常に高いとされています。
ハザードマップの信憑性
ここで疑問が生まれます。ハザードマップの信憑性はいかがなものなのか?
そこで興味深い情報をお伝えさせていただくと台風19号で住宅地が冠水した岡山県倉敷市真備町では、倉敷市が作成していた洪水ハザードマップの「洪水浸水想定区域」と被害がおおむね一致していたのです。広島県熊野町川角で12名の死者を出した土砂災害現場も「土砂災害警戒区域」と重なっていました。そのような過去の事例からやはりハザードマップの信憑性は高いといえるのではないでしうか?
今からできること
このような状況の中で指を咥えてただみているだけでは被害にあうだけです。まずは自身が住んにいる地域がどのような地域なのかを知ることが望ましいと考えます。
品川区のHPには【浸水ハザードマップ】【河川水位情報】【区内標高検索システム】等、誰でも閲覧可能な情報が公開されていますので時間のある際は是非確認いただき浸水時に備えていただくことが大事かと思います。
まさに備えあれば憂いなしです。
6 まとめ
最後に
賃貸物件・分譲マンション・一戸建では対策が異なりますが、やはり定期的な清掃や点検、修理といったメンテナンスを怠らないように心掛ければ被害を最小限に低減することができるのではないでしょうか?
駅近や築年数だけで不動産の資産性を判断するのではなく、リスクの少ない不動産資産を選ぶことが重要視されると考えています。実際に保険会社も災害リスクのある不動産の保険料の値上げに踏み切っており、逆にリスクの少ない不動産の保険料を値下げしている動きが顕著に見られます。
長い目でみれば災害のリスクの少ない不動産は所有者や賃借人に大きなインセンティブが発生すると考えられます。
不動産を選ぶ上ではその土地の歴史を知っている不動産会社に聞くのがてっとり早くサーチコストも安くすみ結果的にはリスクの少ない取引が可能となります。
そういう点では弊社株式会社ランドワーク不動産は五反田・大崎エリアを86年間見続けてきましたので五反田・大崎で不動産購入や賃貸をお探しお客様のお役に立てることがあると思います。
このコラムが皆様の一助になれば幸いです。